【Unlock/山下裕生】選手兼監督、そして翻訳通訳者。スペインから繋がる新たな可能性

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SRYEVがつながりを持つ選手、チームなどに焦点を当て、既存の物事やルールに縛られない活動を紹介する企画「Unlock」。今回は、SRYEVが長年サポートしている山下裕生選手にフォーカスし、彼のビジョンや現在の活動についてお伝えしたいと思います。

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​フットサルスペインリーグにて11シーズンをプロ選手としてプレーし、同時にスペインフットサル指導者資格を取得。2020年に帰国後、選手としての経験と指導者理論を基に、チームだけでなく個々のパフォーマンス・身体の使い方にも重きを置いたトレーニングを展開。スペインで培った視点と技術を、ここ日本でも広く伝える為に活動中。

10代でスペインに渡り、プロフットサル選手としてのキャリアをスタートさせた山下選手ですが、30代を迎えた今は日本に拠点を移し、フットサルの選手兼監督、指導者として次のステップに身を置いています。

Unlock Point

SRYEVが興味を抱いたポイントを、Unlock Pointとして洗い出してみましょう。

1.カテゴリに囚われず「スペイン」を体現する姿勢。

山下裕生選手は10代より10年以上スペインの地で、プロフットサル選手としてキャリアを積みあげてきました。

しかし、2019年から続くコロナ禍を機に、2020年日本に帰国。その後は日本のトップチームに加入することなく、自らチーム設立。ゼロから作る自らのチームで、理想のフットサルを追求していくことを決意しました。その志のもと活動を続けているのが、F.S.Barroso(以下バロッソ)です。

フットサル | F.S.Barroso サッカー | 東京都 江東区 日本

バロッソは、東京都エントランスリーグ(5部相当)から活動をスタート。5部から着実にステップアップを続け、今現在は埼玉県3部リーグを主戦場として、活動を続けています。ただ、山下選手は「リーグカテゴリにはそこまでこだわりがない」と念を押します。

「上のリーグを目指すよりも、”本物のフットサル”をチームでプレーできることが大事」と、自身の理想にカテゴリは関係がないことを強く主張。それよりも自身がスペインで魅了された本物のプレーを、自らのチームで構築していくことに意味があると捉えています。

決まりきった戦術や、”本質”を考えられないプレーは問題外。ワンプレーワンプレーの選択肢に「なぜ?」を問いかけ、局面ごとに変わる最適解を、瞬時に選手個々で出せるようなチーム作りを行っています。「関東リーグやF組織と戦うことになった時『あのチーム…なんか面倒くさいな』と思ってくれれば面白いですね」と笑います。

バロッソはプロではなく、社会人で構成されたチームです。各々に別の生活があり、その傍らフットサルに本気で向き合っています。プロではない環境でこそ、スペインで学んだフットサルを落とし込みたい、それが面白い!という思いが、バロッソには込められています。

2.セカンドキャリアを支援するRiz Ferのプロジェクト参画

今春、山下裕生選手に新たなチャレンジの機会が訪れました。

香川県・高松市が拠点の女子フットサルチーム Riz fer(リズフェール)。四国リーグに所属する女子フットサルチームですが、2024年より、山下選手が監督となることが決定。これを公開する時には、既にリーグ戦を共に戦っています。東京と香川。電車ならば8時間以上かかる距離の地で、なぜ山下選手が監督に就任したのでしょうか。

「昔フットサルが縁で知り合った方がRiz ferの内部にいて、Fリーグ参入を目指すとなった時、自分のことを思い出してコンタクトを取ってくれたみたいです。久々すぎて何事かと思いました(笑)」

フットサルの縁でつながった、女子フットサルチームでの監督業。女子チームでの監督指揮経験は初めてのことですが、自身を信頼してくれること、そして一からチームに自身の哲学を落とし込むことに魅力を持ち、オファーを受けました。自身のチームF.S. バロッソとは違い、Riz ferでは明確に「Fリーグ参入」が目標に掲げられています。チームの成長はもちろん、結果を出すことが第一のプロジェクトです。

それでも「やることはバロッソと変わらない」と、指導のスタイル、内容は一環しています。スペインで学んだ技術をRiz ferにも伝え、チーム強化につなげていくつもりです。

「選手たちと話す機会に、やるなら世界を目指そうぜ!ということを伝えたら、目を丸くして「せ…世界!?」みたいな感じになってました(笑)。でも実際に現地で指導を行ってやるべきことを伝えたら、一気にスイッチが入ってくれて。みんなモチベーション高く練習してくれています。」

まだまだスタートしたばかりのプロジェクトであり、コート内外に課題は多く存在しています。だからこそ熱量を持って、一つ一つ、階段を登っていくつもりです。

4.翻訳・通訳家としての顔。

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選手、監督、指導者など、競技現場での活躍が主として見えますが、別の顔も持ち合わせている山下選手。現地で習得したスペイン語を活かし、通訳や翻訳家としても活動の場を広げています。

テレビ、メディア媒体などの翻訳を行っていますが、昨年はフランスのトップサッカークラブ・パリサンジェルマン来日の際、チームの通訳として帯同もしました。

「パリ・サンジェルマン来日の時はルイス・エンリケ監督の通訳も担当できました。プレーの話でコミュニケーションを取ったりして、色々スムーズに話をしてもらうことができました」と、自身の経験も通訳業に生きているようです。また「何よりその姿を、子どもたちに見てもらいたかったんです。」 と、別の思いも付け加えます。

「プロサッカー選手になるという目標も大事ですが、選択肢はそれだけじゃないし、そこだけを見てほしくないという思いがあります。僕の様にサッカーを通じて語学を学ぶ道もあるし、他にもいろんな道がある。サッカーを楽しみながら、色んな目標を持ってほしいですね」と話します。

当時、山下選手はサッカークラブで子どもたちの指導も担当していました。「選手やコーチとしての姿ではなく、通訳者として表舞台に立つ姿から、選手以外の可能性、未来もあることを理解してほしかった」とのこと。自身のキャリアがそれを体現しているからこそ、説得力があります。

「今はC2レベル(スペイン語の最上級)を目指して勉強しています。そこまで習得できればより広い分野で仕事が出来るので、そこも楽しみですね。」

競技とは異なるフィールドでも、より高い志を持って、努力を継続しています。きっとこの分野でも、新たな活躍を見せていくことでしょう。

5.第2の故郷・タラベラと日本を繋ぐ架け橋に。

チーム哲学はもちろんのこと、その名前やデザインにもこだわりが詰まっているバロッソ。山下選手第2の故郷である、スペイン・タラベラ・デ・ラ・レイナ(以下タラベラ)への想いをもって、すべてが作られていると言えるでしょう。

『リーグ優勝!』

「F.S.はフットサルのスペイン語futbol sala、バロッソは僕が親父と慕う、スペインでお世話になった方の名前をもらったもの。ユニフォームのデザインは、タラベラの伝統的な柄をモチーフにしたものですし、すべてが詰まっています。」

スペインの地元、と呼べる位に愛が深いタラベラという町。出会った人々、町の歴史と伝統をそのままチームの顔に据えています。どれだけ思い深いのかは明らかでしょう。

また、昨年の埼玉県3部昇格時、タラベラの現地WEBメディアのニュースにてバロッソの活躍が伝えられました。

FS Barroso asciende a la tercera división en la Liga de Saitama de Japón

「プロでもない、アマチュアのチームの試合結果が、タラベラで伝えられたんですよ」と嬉しそうに話す姿からも、タラベラへの愛が見て取れます。現地で愛されていた選手だからこそ、現地ニュースで報じられるまでになったのでしょう。

「まだ言えないけど、実現したら面白いこともあるんですよ。」

最後に、タラベラも交えたある計画をこっそりと教えてもらいました。なるほど、実現できれば確かに面白い。もし実現が近づけば、競技に留まらない影響が生まれるかもしれません。それも楽しみにしたいところです。

スペインでの学びをフットサルと人生に活かす。

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10代でスペインに渡り、単身プロフットサル選手としてキャリアを積んできたその経歴は特別なもの。普通に考えれば、帰国後も日本最高峰Fリーグの舞台でプレーする道を選ぶ…という流れが出来ても良いもの。しかし、既定路線は選びませんでした。

あくまでも自身が「やりたい」と思う道を進み、独自のキャリアを開拓しています。第2の故郷、スペイン・タラベラの血が流れるチームの立ち上げと、四国でFリーグ参入を目指すチームの監督就任、スペイン語の翻訳、通訳のプロフェッショナルの道。

どれも日本で始まった、新たなチャレンジです。これからも多くのアクションを仕掛け、彼にしか出来ないキャリアを切り開いていくことでしょう。

他者には真似出来ない、山下裕生オリジナルの行く末を、今後も追っていきたいと思います。